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2011年7月30日 (土)

Blood Music / Greg Bear

わたしも昔から思っていた。 わたしと言うときに,わたしとは何なのか,数十兆の細胞から,腸内細菌叢まで持ち,細胞も赤血球,白血球,リンパ球(その他にも球はいっぱいある)も,自律的に判断し,機能し,生きているではないか。 一体 わたし とは何か。

閑話休題。

この作品は,主人公が変異するところまでの短編として,1983年に ヒューゴー賞,ネビュラ賞をダブル受賞した作品を,編集者の勧めにより更に書き足して長編にしたもの。 後半はやや冗長に感じる部分もあるが,間違い無く書き足して成功した作品だと思う。

「利己的な遺伝子」が一般に紹介されたのは 1976年ということだが,この小説で仄めかされるのはultimate selfish gene(究極の利己的遺伝子)だ。 著作年が古いため,科学的裏付け(SFには必要)は,やや弱いように感じるが,発表時には衝撃的だったろうと想像する。

バイオチップの開発をしている Vergil は,秘密裡に自分だけの研究をしていた。 それは遺伝子のイントロン(遺伝子のジャンク部分と考えられていた。最新の研究結果は知らない。)に,メモリーの機能を持たせ,リンパ球に知性を持たせようというものだった。 彼の研究は,まるで細胞が初めからそのために設計されていたかのように,不思議なほどうまく行ってしまう。

彼が野心家であることを知っている上層部は,彼の秘密のファイルをクラックし,彼が禁止されている哺乳類の細胞を使って実験していることを発見し,彼に即刻それを破棄し,研究所を出て行くことを要求する。 彼は研究所から持ち出すために,自分で作り上げた知性をもったリンパ球を自分に注射する。

知性を持ったリンパ球は,彼をどんどん理解してゆき,彼の食習慣を改善して肥満を治し,近眼を治してゆく,しかし改良は止まらない。

巨大な変化が起きる中,著名な研究者 Bernard は,Vergil と握手したことを思い出し,Biohazard にも完全に対応できる研究室を持つドイツの研究者に電話し,自家用ジェットで単身ドイツへ行き,ジェット機は滑走路で燃やし,滑走路で防護服を着て,自ら実験材料として セルの中に入る。

研究者 Paulsen は,Bernard の変化を観察するという重い役目を負わされる。

この小説では,十分な知力,思考力が集中すると,時空間の質が変わるという新しい物理的現象が登場する。 ひとりの人間が100兆倍の知性をもつのであれば,時空間は変わってしまう。

SF好きなら誰でも思い出すのが,クラークの「幼年期の終わり」だ。 あの本では,ニュータイプはまったく人間的な部分のかけらも持たず,地球そのものを崩壊させて,更に上位の知性体へと変化するのであったが ...

この小説では,そういう非情な書き方はされず,むしろ美しいファンタジーのように終わる。

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コメント

んだねー。
おいらも好きなんです、これ。
すでに(バイオ)サイバーパンクだし。ばき。

某薬剤師の某ミトコンドリアものとは
比べものにならないくらいイイ!
ま〜くさんも自分の中の人を賢くしてみよう!
あ、今やってるんでしたね。ばき。

和訳でしか知らないので文章のニュアンスは違うかも。
ホーガンの星を継ぐ者シリーズ、なんかも慈愛に満ちた内容です。

投稿: きく | 2011年7月30日 (土) 18:25

ああ,話題になったミトコンドリアものは,全然ダメでしたね。 ビジョンの大きさが比較になりません。

ホーガンは昔何冊か読みました。 星を継ぐ者シリーズは読んだんだったかなぁ。 次は,またノンフィクションに行く予定なんですが,その後 SFは(しばらくSFをなまけていたので)ヒューゴー賞,ネビュラ賞作品を全部調べて,そこから読んで行こうかなと思ってます。

キク先輩の「これが,わしのお勧めぢゃ!」というのがあったら,あるいは思いだしたら教えてくださいませませ混ぜご飯。 (^x^)/

投稿: ま〜く | 2011年7月30日 (土) 19:42

これ、面白そう。オーディオブックで出てるようなので、完全版だったら買って聞こうと思います。ん、アメリカ英語か…。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 2日 (火) 21:29

ぜひ! パフ姉の感想も聞いてみたい。(アメリカ英語は我慢するのぢゃ。)

更に古典になっちゃうけど,Arthur C. Clarke の Childhood's end もぜひ!(イギリス英語です。 キューブリックと 2001年宇宙の旅を作ったのは彼だ。)

Flowers for Algernon: Daniel Keyes も超お勧め。 泣けます。 奇跡のようなSF です。

投稿: ま〜く | 2011年8月 2日 (火) 21:51

ロマンチックなSFなら、
夏への扉、お薦め。
R.A.ハインライン。
まあ、御都合主義なところはありますが泣けるでしょう。
宇宙の戦士も有名ですが、それほど面白くないっす。

ヒョウーゴーネビュラ綬賞なら
アン・マキャフリーのドラゴンライダーシリーズはどうでしょ?
ファンタジーですから猫神様好きにはいい鴨。

と、ぼくわおもた。
ま〜くせんせいわ、しょーせつにきびしいので
どゆうひょかするか、尻たい。かんじまちがた。
しりたい。

投稿: きく | 2011年8月 3日 (水) 23:32

Audible UKで出てなかったので残念ながらpending。アメリカのAudibleではあったけど、こっちは会員でないので30ドル近くしますので却下。目が弱っているので活字は現在却下。Kindleだと活字を拡大はできるけど、最近、「読む」集中力が続かない。Kindleの読み上げはわりと聞けるけど、小説はこれでは聞きたくないし。ちなみに、これ、ま~くはどれくらいで読み終わったの?

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 4日 (木) 16:25

この本は長めの中編という感じ。 単語帳を作りつつ,音読して3〜4日くらいです。

反対に質問。 パフ姉は,英語と日本語は同じ速度で読めますか? 同じ速度なら 3時間あれば読めると思います。

Blood Music 入手不可だったら,Flowers for Algernon: Daniel Keyes をお勧めしたいなぁ。 こっちは普通の長さの長編です。

キク先輩
ハインラインも猫好きだったんでしょうね。 ハインラインはやっぱ,日本の文庫本としては思いっきり厚い「異星の客」をお勧めしたい。
いや,アルジャーノンの真似しなくていいから。 (^x^;

投稿: ま〜く | 2011年8月 4日 (木) 22:23

いや、とても同じ速さではよめません。昔と比べれば少しは速くなったかもしれないけど。
通勤時間のほとんどを主に小説を読むのに費やしていた時でも1日に50ページくらいしか読めなかったです。いまは連続して1時間も読むと頭痛い。眼鏡が合ってないのもあるかな。帰国中に新しく作る予定。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 5日 (金) 01:24

訂正。 「アルジャーノンに花束を」も,薄めの長編でした。 300ページちょっと。 Blood Music はページ数では更に少ないです。

投稿: ま〜く | 2011年8月 5日 (金) 12:09

アルジャーノンに花束を、の元の短編(邦訳)を読みましたが、
あっけなさ過ぎて物足りないので、長編版でいいと思います、だれるところがあるけど。
英語だとどういう表現からだんだんと変わっていくのか興味はあります。
小学生の日記様から変わっていくんでしょうけど。

あと原著に興味があるのはギブスンですけど、
前に掲示板でやりとりした記憶が。
DeJaVuだ。ぐるぐるまわる。w

投稿: きく | 2011年8月 6日 (土) 12:11

アルジャーノン,今でも短編版は売ってるのでしょうか。 長編版が殆どでしょう。 こうしてみると,成り立ちの仕方は Blood Music に似てるんですね。

原書で読む場合,SF は一般的に難しいです。 まず,その物語の背景がどんな世界なのか理解するのに時間がかかるし。

Gibson は 4冊読んでいるようですが,どれも難しいです。

○ Mona Lisa Overdrive
素晴らしい題名なのですが,とにかく難しかった。 読んだ,と言っていいのかどうか不安。 あとで,文庫本を立ち読みして納得した部分あり。 翻訳者って凄いなあ。

○ Burning Chrome
これは,短編集なので難しいです。 背景世界の把握をしきれないうちに終わってしまう。

○ All Tomorrow's Parties
idoru の続編。 新宿から始まる。 これは難しかったが楽しめた。

○ idoru
わざとローマ字で書いてある。 日本のホログラフィックなバーチャル・アイドル。
伝説のロックスタ-。ロシアンマフィア。 おたく。 女子高生。 カップラ-メン。
孤児院で射たれた薬によってデ-タの海から node を見つけられる男。
秋葉原。 新宿。 ラブホテル。AI。 ナノテク。もちろん電脳空間。

これは面白かった。 舞台は日本。 これが 1996年に書かれているとはびっくりです。

投稿: ま〜く | 2011年8月 6日 (土) 14:09

↑ ここまで書いて Neuromancer を読んでないことに気付いた。

あり,買ってしまった。 catsweat01

$8.39/Kindle version だと,ハヤカワ文庫/Amazon.jp の¥1,008 より,全然安いではないですか。 しかし邦訳の価格からして,相当厚い本だと思われる。
しかし,これが TOEIC の得点向上に繋がるかどうかは未知数である。

投稿: ま〜く | 2011年8月 6日 (土) 14:35

あああ、増えてる。

アルジャーノンの短編版は
「心の鏡」の中に収録されてまふ。

投稿: きく | 2011年8月 7日 (日) 02:04

結局Kindleで読んだ。1日目に半分、1日置いて2日目にほとんど最後まで。眠気に負けて3日目に最後の数ページ。

最初、半分読んで飽きた。アイデアは面白いと思ったけど、多分、感情移入できる人物が全然いなかったのも大きい。ハリウッドのSF映画のノベライズを読んでいるような感じ。

後半、Bernardが最終的に変化していく過程でNoocytesと会話するところは割と面白かったけど、なんていうのかなぁ、Suzyちゃんはあっという間に状況を受け入れてしまうし、頑固に私は私でいたい、と抵抗した割に最後はあっさり、もう一人の自分についてっちゃうし、一番事情がわかっている科学者たちも、考えるのは個々の人生ばかりで、いかにこの変化が人類にとって人間である事の意味を根本的に変えてしまうのか、たかだか何千年ではあっても人類が築き上げてきた歴史や文明や、それに伴う苦悩や殺戮や歓喜、闇と光を共に抱え込んだ、そういうものが失われるであろうという事に関しての考察や怖れといったものが希薄だと感じました。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 7日 (日) 18:26

ちなみに、読了するのに6時間はかかったと思う。アメリカ独特の事物やいいまわし、サイエンス系のわかんない言葉は無視して読み飛ばしてだから、日本語の二倍はかかってます。一般的な言葉で調べなければならないものはほとんどなかったんだけどね。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 7日 (日) 18:30

そうですか,飽きましたか。

たぶん,パフ姉が読んで面白いと思うのは,ソラリス,枯れ草熱,天の声 なんかのスタニスワフ・レムだと思います。 特に「天の声」は完璧にSFなのに,完全に思弁的な小説であると思います。

なぜ,レムにノーベル賞をやらん! と怒っているのは,世界でま〜くだけでは無いと思います。 何故か,ボーランド,ルーマニア,チェコあたりでは昔々から SF をちゃんとした文学として扱う伝統があるようです。

レムで悲しいのは,それがポーランド語で書かれていることです。 いつか調べたら,レムはほぼ全て英訳されているのですが,訳だもんなぁ。 それなら,日本語訳でもいいし ...

投稿: ま〜く | 2011年8月 7日 (日) 20:20

そういえば、ソラリスはポーランド語からの英訳が最近でて、それをもとにドラマ化したのをオーディブルで売ってたなぁ。で、そうか、映画のソラリスはロシア語だから、あれも翻訳なわけだ。同じスラブ語系だから響きとしては似てるんだろうけど。

で、ま~くの読みは当たってると思う。SFってさ、哲学のように「根源的」な問いを発するに適当なお膳立てをしやすいのに、哲学的に思考を深めていく事が少ないのではないかと思う。別にそれが悪いというんじゃないし、アメリカ物でもブラッドベリは好きなんだけどね。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 7日 (日) 21:00

レムは宇宙に生命あるいは知性(たとえばソラリス)があったとしても,理解し合えることはないと考えている。 そんな単純なことは起きないと考えている。 不可解なことは不可解なまま終わる。

「天の声」では,宇宙のバックグラウンドノイズが modulate されていることを知る。 極秘の計画に世界中の最高の科学者が集められ,謎を解こうとするのだが,それは幾通りもの解釈を許し ... 何かが作られる ... 未知の物理現象が起きる ... 主人公の天才数学者の自分の性格についての独白から小説は始まる。 同僚の知性のある科学者達によって深められて行く実験と議論がいい。
それなのに最終的な解釈は別のところから出てくる。

ま〜くは文庫で持ってるんだけど,現在日本ではハードカバーしか手に入らないようです。

人間を超えた知的な何かを創造して,それが神の領域に達するのを怖れて破壊する「リンファーテルの公式」(中編)も素晴らしいです。

ブラッドベリって,SF なんだけどちょっと違う。 夏の夜気のようなものを繊細に表現できる作家だと思います。

投稿: ま〜く | 2011年8月 7日 (日) 22:29

Lemは英語ではペーパーバックで沢山でているようですが、どれも、あと1冊とか、3冊とか在庫が少なそう。表紙のデザインも古くて、売り切れたら廃番なのかも?Kindleでは出てない。His Masters Voice というのが「天の声」じゃないかと思うので、これを買ってみようかと思います。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 9日 (火) 03:15

ぜひぜひ(息切れしているのではない),感想をお聞かせくださいませませ。

投稿: ま〜く | 2011年8月 9日 (火) 16:03

なお,ただの間違いだと思いますが,廃番という日本語はありません。

レコード,CD → 廃盤。
本 → 絶版。

でありまふ。

投稿: ま〜く | 2011年8月 9日 (火) 20:46

そ~そ~、本は「絶版」でございました。

ちなみに「廃番」って、デジタル大辞林には載ってたよ。もとは1995年版だけど、アップデートかかってるかも。2002年版の電子辞書の広辞苑には載ってなかった。1989年版の新明解国語辞典第四版(紙版)にも載ってませんでした。

「商品の生産や取り扱いが中止となって、管理上の製品番号がなくなること。また、その番号」とあるので、便宜上企業などで使われ始めたのかもしれません。

そういえば、Etymologyというか、その言葉がいつ頃から使われ始めたのか、という情報は手持ちのどの辞書にはありません。昔家にあった岩波の国語辞典(広辞苑じゃないもの)は、確か意味が語源の古い順に出ていたように思う。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月 9日 (火) 22:21

廃番って言葉は,企業内には存在すると思います。 部品一個ずつに10桁以上の番号(元の会社では,図面の番号なので図番と呼んでいた。)が付いてますから。

語源って知りたいことありますよね。 地名なんかでも,なんて不思議な名前なんだろうと思うようなのがあるのですが,そーゆーのは,もともと使われていた地名が段々なまって(変形して)最後に漢字に置き換えられたものが多いんじゃないかと創造します。

投稿: ま〜く | 2011年8月10日 (水) 09:01

ブラッドベリの作品って詩だと思う。
うん。

投稿: きく | 2011年8月11日 (木) 01:43

同感。とても叙情的。

投稿: Pumpkinface | 2011年8月11日 (木) 06:13

ま〜くも,とても叙情的だと思います。 十月はたそがれの国( The October Country ) が好き。

ここは意見の一致を見たようですね。 なむなむ。 ←特に意味無し。

投稿: ま〜く | 2011年8月11日 (木) 13:10

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